オークションを見ていたらEMT928が出品されていた。EMT928はトーレンスの影響を受けた業務用レコードプレーヤーでEMTでは唯一のベルトドライブ方式。トーレンスTD125と共通点が多いが放送局での使用を考慮されている。有名なEMT930stと同様に331/3 45 78RPMに対応しイコライザーも内蔵していて1975年当時の価格は75万円と超高価。
今までにEMT928は数台メンテナンスしたが弱点としてクイックスタートの信頼性の低さ(これについては後年EMTから通知文章が出ていたと記憶する)、半固定抵抗器の多用による長期安定の不安、一部の低品質の電解コンデンサーのショートによる抵抗器の発熱(場合によっては発火)が挙げられると思う。しかしトーレンス直伝のフローティングシステムを搭載し堅牢で非常にコンパクトにまとめられているなど流石に放送現場で鍛えられた会社の製品だという印象でした。
入手したのはアーム、イコライザー、サブターンテーブルなし、モーター基板が結線されていない、欠品多数というジャンクな状態だが幸い外観は良好。世界的なEMT製品の高騰で全てのパーツを集めることは難しいかもしれないがせめてアナログ再生の雄であるEMTの品格は取り戻したい。時間はかかると思うが気長に進めていきます。


まず電源部をチェックします。

EMT928は入力電圧は2種類、電源周波数も50と60Hz両方に対応していて世界中で使用できる。入力電圧の切り替えは装着するヒューズの向きで行われる(当然使用するヒューズの電流は異なる。余談だが以前110Vの設定なのに220Vを接続してしまったことがありヒューズが切れる前にたしかモーターの発振回路の出力Trが昇天しコンデンサーがパンクした)。電源ボードには電源トランス、整流回路、平滑回路、スイッチ回路などがあるがクイックスタートのパーツに欠品があるのでスイッチ回路のチェックは後回しにします。EQボードへの±23Vとメインスイッチと同期するマイクロスイッチに反応するリレーが動作すればよい。チェックしてみると当初リレーは不動。原因は基板のパターンの断裂があり早速補修して動作するようになった。しかしON,OFFが不安定なので分解して接点掃除で対処した。
次にストロボユニットを補修します。ユニットとコードが断裂しているので本体からは外してまず生きているかチェックする。

幸い220Vで動作するネオン球は無事で新たな線材を引き出して補修した。
完全に脱離しているモーターの制御基板とモーターの動作確認をします。電源基板とマイクロスイッチ、回転数の調整ボリュームを仮接続してスライダックで徐々に電圧を上げていく。

細かなところは未チェックですが幸いモーターは回転します。オペアンプ、各トランジスターは以前作業した時の予備があったのだが必要なさそうでホッとする。接続コードが揃ってないのでどうするか考えます。コード両端の接続端子はとてもシンプルなのだがあまり見たことがなく入手可能なのだろうか?
と思いながら探すとAMAZONであっけなく見つかった。

良かったです。欠品のネジを揃えてモータードライブ基板を固定し接続する。
モーターは回るが正常動作かは不明。ドライブベルトは注文中なので到着したら実際にターンテーブルを回したり基板の半固定抵抗の調整をします。
操作レバーのメンテナンスを行います。

とてもしっかりとした造りでさすがプロユースと思わせる。回転数の調節はコイン状のダイヤルを転がして抵抗値を変える。スライドボリュームが接触不良になっていないかアナログテスターで確認。アナログテスターの数少ない出番でスムーズに針が動いてくれればOK。電球は電源トランス直結の交流で点灯するが関係の配線を確認しておく。

Qスタートのパーツは欠品があるので現時点では機能しない。ソレノイドはちょっと変形していたが将来パーツが揃った時のために修正して搭載しておく。

EMT928のサスペンションはThorensオリジナルのマシュルームゴムを3個使っています。3個というのがちょっと変わっていてなぜだろう?高さの調整は裏側から高さ調整の樹脂製パーツで行うのだが片方は1個なので前後の高さ調整ができない。Thorensでは常に4個使用されていると思うがちょっと不思議だが多分意味があるのだろう。今回は高さ調整の樹脂製パーツが欠品なのでスペーサーなどを用いて高さ調節を行う。そしてこのマシュルームパーツは非オリジナルでも結構高価なので今回は今までも多用してきたウレタンゴムの自作品で代用します。

ドライブベルトは以前の経験から522mmx5mmx0.7mmを選択。純正品はちょっと材質が異なりかなり音味に影響を与えるのだが現在では入手は困難です。

ターンテーブルを載せて回転させると33 1/3はカクカクしてまともに回らない。これからモーターのドライブ基板の半固定抵抗を調整します。
instruction manualに調整のヒントが書かれている。要約すると
33rpm 45rpm 78rpmにおいて
1発振周波数の設定 ポテンショメーター”F”で行う 21.5Hz 29Hz 50Hz
2アースとR,S,Tの三相電圧の設定はポテンショメーター”S”で行う 5V 6V 8.5V
各相電流は250mA
3S相に対してRまたはTの位相関係を±120°にする。実際は母線中点とアース間の電圧が最小値(AC250mV)に設定する。
、、、やっぱりよくわからない。周波数とAC電圧を合わせて3波のサイン波が120°ずれた状態で綺麗に出ていればいいと思うのだが。以前指摘されたが調整時に3現象オシロなどは必要ないらしい。
1と2を合わせるときもしも値が滑らかに変化しない場合は半固定抵抗のトラブルが考えられる。3は指示通り中点とアース間の電位が最小になるようにRとTの調整をした。原理はよくわからないがとりあえずカクカクは消えてスムーズに回るようになった。

同時に2波しか見れないがサイン波は綺麗なようだ。
欠品のサブターンテーブルは海外オークションで見つけて価格交渉し先日カナダから送られてきた。

Qスタートにはこのサブテーブルは欠かせないがそれ以上にEMT928の外観を決定づける格好をしている。今回はラッキーにも入手できてよかった。
EMT929アームもなんとか入手できたがコネクターが特殊な形状。それらしきものをみつけて注文したので隣国からの到着を待ちます。
それまでにオリジナルと同寸のキャビネットを製作します。

今日は結構な雨だったがホームセンターでMDFをカットしてもらい接着剤だけで組み立てた。MDFも随分と高くなったしワンカット50円でこちらもかなり値上がりしたが結構時間をとられる作業は全くのサービスに違いない。外装は突板を貼るのだが手持ち分では足りないことがわかって注文した。しばらく待つことにします。
三連休で突き板屋さんもお休みだったらしくしばらくかかりましたが到着したので早速貼ってオイル仕上げ

、、、残念ながら不本意な仕上がりでがっかりです。オイルステインで着色したが木工用ボンドがはみ出したところがマダラになった。はみ出した接着剤は濡れ雑巾でかなり擦って落としたつもりだったのですが、、残念です。着色しなければあまり目立たないので最近はナチュラルオイル仕上げが多かったのですが今回はオリジナルに合わせたのでボロが目立ってしまいました。
ツキ板の販売元に質問すると「基本に忠実に」。HPに教則ビデオがあるので次回は自己流をやめて手順に沿って作業することにします。
欠品のアームレストは手持ちの部品を利用して再現した。アームなども仮付けして全体の収まりをチェックする。

幸いアームは状態が良いのを入手できた。キャビネット底面にあるインシュレーターもオリジナルを真似た。ところが自作のウレタン製代用マシュルームは既にへたってしまい重量級には適さないらしい。諦めてマシュルームインシュレーターを使うことにします。

ようやく隣国から注文していたコネクターが届いたが残念ながら適合しなかった。改めてアームのマニュアルを見ると品番が載っていて一応流通しているようなので頑張れば入手は可能ではないかと思うが今回は届いたコネクターがとてもしっかりした製品だったので置換することにした。もちろん元のコネクターに戻せるように配慮した。

コネクターからの引き出し線はRCAプラグ付き細めのベルデン製2芯シールドコードを採用した。いろいろと試行錯誤しながらだったのでこれらの作業だけで数時間かかってしまった。
早速組んで試聴。アンプはJBL SA600 スピーカーはフラゴン 昇圧トランスはWE618B

HAMの確認が目的だったのだがアンプが不調で片chが出力しない。カートリッジからの信号は出力している。アース線はシールド線から引き出して対応した。
その後アンプを変えてみたがphono回路の故障が続く。普段あまり使わない部分なの故障を見逃していたもしくは保管中に故障したか。古い機器はメンテナンスしながらが前提なのでたまに引っ張り出すとこんな有様な事が多い。修理が好きで好きでたまらないわけではないし自分が行ったメンテナンスの甘さを突きつけられたような気がして気が滅入る。
片chしか出力しなかったEMT155stの様子を伺う。通常はEMT930stやEMT927stに搭載されるが以前に単体で動作するように電源とアダプターを作成した。今回久しぶりの出番だったのだが16Pのコネクターの端子が黒色に変色している。


サンハヤトの「接点ブライト」はその後の水拭きと接点オイルが必要だがこれは有効で結構綺麗になった。。EMT155(st)はAC13Vだけで動作するので適当なACアダプターを改造して電源にしている。これで両chとも出力されるようになった。

EMT928 + EMT155st +AIYIMA A80 + UHER SX208Aで試聴。実際にはセッティングをもう少し詰める必要がありそうだが一応出音した。欠品があり分解された状態からの出発だったが何とかここまでたどり着けました。
お読みいただきありがとうございました。
雑記

The Beatles ANTHOLOGY 4
ANTHOLOGYは1からLPで購入しているので今回もそうなったがいずれもあまり聴くことがない。やはり資料的な音源はCDや配信の方が便利で気軽に聴ける。先日購入したANTHOLOGY4もまだ針を落としていなかったのだがEMT928の試聴をかねて聴いてみた。
とても鮮明な収録。Beatlesが解散して随分と年月が経過したわけだが研究や分析、未発表の新たな音源が発掘される様子はもはや考古学に近いのではないかとさえ思う。たとえ没になったtakeでも新たな発見があり新鮮に聴くことができる。3枚組LPの最後の6面はFree as a Bird , Real Love , Now and Thenの3曲なのだが前者2曲はデミックス技術を用いた2025年バージョンでかつてGeorgeが存命だった1990年台のものとくらべてかなり鮮明に聞こえる。賛否はあるようだが私は好ましく感じた。